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殿部の筋肉、梨状筋が坐骨神経を締め付けることで起こる坐骨神経痛

梨状筋症候群

Piriformis syndrome

殿部と下腿にかけての強い痛み。足部の筋力低下でつま先が上がらない。

【臨床的特徴】

 60代男性、4か月前から片側の殿部とふくらはぎ外側に強い痛みを感じている。男性は数十年前に椎間板ヘルニアを経験しており、今回のこの痛みは椎間板ヘルニアが再発してしまったせいではないかと初めの頃は思っていた。

 しかし、時間が経つにつれヘルニアの時と少し様子が違うことに気が付くようになった。それと言うのも、当時は腰を曲げる動作やくしゃみで痛みが強く増悪されたのに対し、今回は全くそのようなことはないからである。
 今回は足関節の運動にも支障が出ている。足を背屈(つま先を上げる動作)しようとしても全くといっていいほど動かすことができない。気を付けていなければ、少しの段差でもつまずいてしまうことがある。
 

 医療機関では椎間板ヘルニアではないかと言われ、牽引治療、痛み止め、ビタミン剤などの治療を受けているが症状に変化は感じられない。

【介入と結果】

 腰椎は前弯が消失してやや後弯して見える。足指と足の甲は触れられる感覚が鈍く、ピンでつつかれること、振動を与えられることの感覚を識別することができない。足底ではいずれの感覚もはっきりと識別することができる。背屈(つま先を上げる)はできないが、つま先で歩くような動作では十分に力が入る。

 腓腹筋と前脛骨筋(すね)に筋委縮が認められた。腰を屈める動作や下肢を挙上する動作で痛みは増悪しない。殿筋が硬く緊張しており、軽い押圧で強い痛みを訴える。

 

 施術は、脊柱及び仙腸関節、殿部の筋肉に対して行われた。施術後、殿部の強い痛みはほぼ消失した。中2日の2回目の来院の際、クライアントは足が多少なりとも動かせるようになったことをセラピストに伝えた。ピンでつつかれた時の感覚はまだ十分ではないが、足を触れたときや振動を与えられた時の感覚は十分に識別することができた。

 

【考察】

 この症例は「梨状筋症候群」が疑われます。第4. 5腰神経根と仙骨からの神経根が束になって構成される坐骨神経は、骨盤から大腿に向かう途中で梨状筋と呼ばれる殿部の筋肉の下縁を通り抜けるのですが、このとき硬く緊張した梨状筋が坐骨神経を締め付けるように圧迫することがあります。坐骨神経は感覚神経だけでなく運動神経も含んでいますから、長期間、神経の伝導が障害されると坐骨神経痛だけでなく、筋力低下、筋委縮が起こることがあります。
 この症例では、足の甲の感覚異常と足関節を背屈する前脛骨筋の筋力低下がみられましたが、これは坐骨神経の一部である腓骨神経が選択的に障害されたためであると考えられます。

​【下絵】右下肢後方から

MEMO:

dis-easeとは、「くつろぎ」、「調整」、「適応」の欠如した生体の状態を言います。diseaseは特定の徴候と症状の表れたいわゆる「病気」のことです。カイロプラクティックでは、dis-easeのことを「前病気段階」と呼び、病気になる前のこの段階でのケアが最も重要であることを強調しています。

症例:

椎間板障害から起こる坐骨神経痛

 

梨状筋症候群(殿部の筋肉が坐骨神経を圧迫して起こる坐骨神経痛)

関連痛(坐骨神経痛に似た殿部太ももの痛み)

急性腰痛

坐骨滑液包炎(限局した殿部の痛み)

脊柱圧迫骨折後の慢性腰痛

脊柱管狭窄症(歩いていると生じる腓腹やすねの痛み)

​・知覚異常性大腿痛(大腿前外側の痺れを伴う腰痛)

​・椎間関節症候群(腰の反りの強い人によく見られる腰痛)

 梨状筋症候群は椎間板ヘルニアで起こる坐骨神経痛と症状がよく似ていますが、発症機序は同じではありません。前者と後者では自己管理のしかたが多少異なるため、椎間板ヘルニアとの鑑別は必須です。

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