なぜ男女の賃金に格差があるのか:女性の生き方の経済学
- ベルワンカイロ
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なぜ男女の賃金に格差があるのか:女性の生き方の経済学クラウディア・ゴールディン (著), 鹿田昌美 (翻訳)慶應義塾大学出版会2023/3
結婚や子どもをもつことを犠牲にしなければならない状況では、多くの女性が、自分のキャリアを活かせる仕事に就くことを諦めてしまうようです。けれども、女性の社会進出には、個人の幸福だけでなく、経済成長を促す波及効果もあるとされていて、無視することはできません。
著者の提唱する「5つのグループ」の枠組みは、女性が20世紀を通じて直面してきた「家庭かキャリアか」というジレンマの変遷をとてもわかりやすく整理しています。
1⃣ 1900-1910代〔家庭かキャリアか〕2⃣ 1920-1930代〔仕事のあとに家庭〕3⃣ 1924-1943代〔家庭のあとに仕事〕4⃣ 1970代〔キャリアのあとに家庭〕5⃣ 1980-1990代〔キャリアも家庭も〕
大卒女性のキャリアを5つに分けることは、単なる分類以上の社会的・歴史的な意味があります。
一つ目は、「女性の生き方」が変化してきた歴史を「見える化」することができることです。
1900年代から現代までの約100年で、女性の教育、就業、結婚、出産に関する価値観が大きく変わってきました。その変化を「ラフステージ」に分けることで、何がいつ、どう変わったのかを明確に理解できます。これは、「なぜ今、賃金格差が残っているのか」を歴史的背景から考える上で重要なことです。
二つ目は、選択の可能性が生まれるまでのプロセスを可視化できることです。
初期のグループは「家庭」か「キャリア」か、どちらかしか選べませんでした。それが、避妊薬の登場や法制度の変化によって、「家庭もキャリアも」持つことが“理論的には”可能になったのが後期のグループ。つまりこれは、「女性が人生をどう設計できるようになったか」の物語でもあるのです。
三つ目は、現在の課題の“根っこ”を探るヒントになることです。
例えば、最新のグループ(1990年代以降)は「結婚も出産も仕事も全部やろう」とするけれど、現実には両立がとても難しい。なぜ難しいのか?その理由を、過去との比較から検証できる。つまり、この分類は**「まだ何が足りないのか」を浮き彫りにする手段**にもなっています。
そして四つ目は、「政策提言や働き方改革の根拠になる」ことです。
「今の若い女性たちは何に悩んでいるか」を、ただ個人の問題としてではなく、歴史的・構造的な問題として理解できます。それによって、社会や企業が取り組むべき課題が明確になる。 例:柔軟な働き方、育休制度、夫婦間の家事育児分担、教育と労働の連携など。
最後の五つ目は、「 女性だけの問題ではないことが見えてくる」ことです。
このライフステージの変遷を見ると、「女性だけが選択を迫られてきた」という不平等の構造が見えてきます。逆にいえば、男性も家庭に関わる自由を得られるようにする、必要があることを気づかせてくれます。
この5分類は単なる整理ではなく、「どうして今も女性はキャリアにおいて不利なのか?」「どうしたらその不利を克服できるのか?」を考えるための地図の役割をしています。
本書は、論文形式ではなく、一般の人にも親しみやすい市民講座のような口調で語られています(ちなみに、著者のクラウディア・ゴールディンは、2023年にノーベル経済学賞の受賞者です❣)。
内容はアメリカ社会を中心に展開されていますが、資本主義という共通の枠組みを持つ日本にも共通する問題意識が多く見られるように感じられます。ただし、考察対象が高学歴で職業選択の自由のある、裕福なアメリカ人女性に絞られている点には注意が必要です。
それでも、本書で示されている考察は、働き方や制度のあり方を考え直すきっかけを与えてくれるのではないかと思います。著者が提起する「柔軟な働き方の再評価」や「保育・育児の社会的支援の必要性」、「トレードオフ(家庭か仕事かという二者択一)を減らす環境づくり」といった視点は、非正規雇用やパートタイム労働が多い層、さらには貧困層の女性にも共通した課題であるはずですから。
著者が提示する「5つのグループ(あるいは世代)」という枠組みは、20世紀を通じて女性たちが直面してきた「家庭かキャリアか」というジレンマの変遷を、とてもわかりやすく整理しています。論文形式ではなく、一般の人にも分かりやすい講座のような口調で書かれています。女性は避妊薬の登場でキャリアを伸ばしたなんて、びっくり、なるほどという感じで笑っちゃいます。
なかでも興味深かったのは、第4グループに該当する世代についての記述です。避妊薬(特にピル)の登場によって、女性は妊娠のタイミングを自分でコントロールできるようになり、それが高等教育(大学院・専門職)への進学率の上昇や、長期的なキャリア設計を可能にしたことです。これにより、「結婚・出産を前提に短期的に働く」という従来のモデルからの脱却が進んだといいます。
本書はアメリカ社会を中心に書かれていますが、資本主義社会という共通点を持つ日本にも共通する問題意識が多く見られるように感じられます。ただし、高学歴で職業選択の自由のある女性を想定して書かれている点には注意が必要です。
それでも、本書で示されている考察は、働き方や制度のあり方を考え直すきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。著者が提起する「柔軟な働き方の再評価」や「保育・育児の社会的支援の必要性」、「トレードオフ(家庭か仕事かという二者択一)を減らす環境づくり」といった視点は、非正規雇用やパートタイム労働が多い層、さらには貧困層の女性にも共通の課題であるはずです。